臨床実習・脳外科


 かたどおり、患者一名を受け持ち(もちろん本物の主治医がおり、学生はそれに寄生しているムシみたいなもの。科によっては主治医から露骨に邪魔者扱いされたものだ)その疾患について実地に勉強する。

 脳外科に限らず、臨床ではまず主訴すなわち現在最も困っていることを聞き取る。「頭が痛い」であればそれはいつからか?どのような痛みか?朝昼晩のうち痛む時間帯はいつか?吐き気もなくいきなり吐くことはあるか?など更に細かい質問に対する答えから疾患を絞り込んでいき、次に他覚所見つまり患者以外の第三者つまり医師が診察、検査した結果からいよいよ候補の疾患を減らしていく。

 診察、検査の結果から診断を下し、治療法を選択し、その効果、治療の後どうなるか(予後)を判断する。

 僕の受け持ちは脳膿瘍といって脳の中に膿が溜まる病気であった。膿が増えていくので頭痛が酷くなり、ときどき吐いたりしてレントゲン上でも脳腫瘍と紛らわしい。造影剤を使って CT を撮影すると独特の形状に写りそれが診断の決め手となる。(とまあこのあたり、なにぶん 20 年近く前の話なので間違ってるかもしれませんがご容赦を)

 実習も終わりに近い時期、学生の最も恐れる教授回診の日。

 教授を先頭に学生を尻尾に病棟の廊下に行列ができる。回診とは教授が患者全員を診て主治医に質問や指示を与えると同時に実習中の学生に対するテストでもあるのだ。僕たちは受け持ち患者の病歴すなわちいつ発症してどんな検査を受けたらこんな結果が出たからあんな治療を行ったあるいは行う予定であると答えられるよう勉強する。

「○○さん□□歳、男性。既往歴、家族歴ともに特記すべきこと無し。×月△日に『一ヶ月前から明け方に酷くなる頭痛』を主訴に来院。CT 上占拠性病変を認め、造影 CT の所見は、、」

「まて、そこまでのデータから何を考えるか?」

「膿膿瘍です」(あ、しまった、造影 CT 所見をまだ喋ってなかった!冷や汗がどっと吹き出す)

 待ってましたとばかり「なにい?脳膿瘍やと?根拠は??」

「えーと、あのー、そのー、造影所見でリング状陰影が、」

「阿呆、造影はまだやろが」

「、、、脳腫瘍を疑います」

「そう、そうじゃ、それでええのじゃ。造影はその後じゃ」

 K 君だったかあるいはよそのグループでの話だったか、教授の質問に答えられず窮している学生がこの回診の要領を飲み込んでいる古参の患者さんから助けられた話を聞いた。長く入院している患者は学生より物知りである。(笑)


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