CCDカメラとAstrometricaによる彗星観測の楽しみ

Comet observation using CCD camera with Astrometrica shareware

(天界2002年5月号 282-300ページ掲載)


2001 Oct. 29 登録 2002 May. 01 公開 2004 Jan. 20 更新

 

序文

 冷却CCDカメラの普及により大望遠鏡や立派な観測室等を必要とせず、遠征することもなく光害の酷い自宅からでも小型の望遠鏡を使って、一昔前には考えられなかった暗い彗星の観測が可能な時代となった。毎年発行される、彗星年表を見ては「ああ、今年も明るい彗星の出現はないのか」と嘆息する日々はもはや終わったのである。

 さらに、CCD画像には多くの貴重な情報が含まれており、撮りっぱなしではもったいない。未知の小惑星、変光星、新星、超新星が写っているかもしれないし、新彗星発見の可能性すらゼロではない!そのようなCCD画像に含まれる情報を「利用し尽くそう」という試みの一例として、主に未知の変光星を検出すべく進められている、吉田誠一氏を中心としたMISAOプロジェクトが挙げられる。CCDをお使いの方は氏のサイトにアクセスし、画像提供の方法を問い合わせられたい。

 ここではCCD画像を利用して彗星を観測・測定・報告する楽しみと、天文学に貢献できる精密位置観測(以下、精測と記述する)の方法について筆者自身の経験を述べる。

 冷却CCDカメラの理論・構造(文献 福島英雄:冷却 CCD 入門:1996)や精測ソフトウェアのアルゴリズム(文献 木下一男:彗星の位置推算.INTERACTIVE ASTRONOMY Vol.8:104~113, 1996)等については文献を参照されたい。

 なお、鈴木雅之氏のサイトに精測についての記述が掲載された。このページと併せてご利用頂きたい。

 

(1)観測・測定に必要なもの

 冷却CCDカメラ(以下、単にカメラと記述する)、天体望遠鏡、DOS/Vパソコン、精測用ソフトウェア・Astrometrica、比較星表・HST - GSC 1.1、GSC星表からその位置精度をより高めた、GSC - ACTへ変換するためのソフトウェア、FITSフォーマットが扱える画像処理ソフトウェア(MaxIm DL、ステライメージ等)、インターネット環境。

門田健一氏のサイトには有用なリンクページがあり、筆者も常々お世話になっている。

 

(2)予備知識

1. カメラと光学系

ピクセルあたりの解像度(秒角)=206×ピクセルサイズ(ミクロン)÷焦点距離(ミリ)

 理屈上、解像度は高いほど良いはずだが、高解像度システムは不良シーイングによる悪影響を受けやすく、その高解像力を生かせない場合が多い。日本の夜空における平均的シーイングサイズ・3.5" を考慮すると、ピクセルあたり2"の解像度があれば理想的といえる。筆者のシステムでは2.7"だが測定結果に問題はなく、4"近いシステムで立派な観測を行っているベテランもいる。

 よって、ピクセルサイズ・9ミクロンのカメラには500-900ミリの焦点距離があれば充分であると考えられる。但し、ピクセルサイズが小さいほど量子効率(感度)が低下するため、暗い天体の撮影が困難となる。ビニングを使えば量子効率が上がるが、解像度が低下するので長めの焦点距離が必要となる。市販されているカメラの画面サイズは概ね10x10ミリ程度であるから、焦点距離が長いと写野が極端に狭くなり(筆者のシステムでは23分角四方)、目的天体の導入が困難になる。これらを充分考慮のうえカメラを選択されたい。

 筆者は現在、エンコーダーの付いた赤道儀に1800ミリの焦点距離を使用しているが、観測開始当初は、エンコーダーのない古い赤道儀に2000ミリの焦点距離を使っていた。名前の分かっている恒星を写野の中央に導入して恒星時駆動の赤経目盛環を合わせ、その後小さな目盛環と星図ソフトの示す星の配列を頼りに導入するのは厄介だったが、慣れれば素早く導入できるようになるものである。

 光学系の種類はなんでも良いが、筆者はシャープな像を結ぶニュートンタイプを好む。天体望遠鏡である限り、余程粗悪な光学系を使わない限り問題ないと思うが、眼視捜索と同様、シャープな光学系は、その限界に近い暗い彗星を観測する際に威力を発揮する。正確な合焦操作が基本であることは言うまでもない。

 カメラレンズでは色収差が目立つようである。R-60等、シャープカットフィルターの使用や絞り込み等、収差の軽減を工夫する必要があると思われる。

2. 画像フォーマット

 世界的にFITSフォーマットが標準的に使われており、最近のカメラの多くはFITSフォーマットでの画像出力・保存が可能である。筆者の使用しているカメラにはコントロールソフトの付属が無く、カメラメーカー推奨の、カメラコントロール機能を兼ね備えた画像処理ソフト・MaxIm DL/CCD(Diffraction Limited 社製。cyanogen.com にてUS $400程度で直販されている。国内代理店を通せば倍近い価格となる)を使用し、FITSフォーマット画像を取得している。ここではFITSフォーマットの利用を前提として記述を進める。

 少し脱線させていただく。筆者が、舶来製カメラの日本国内価格が現地価格をあまりにも大幅に上回っていることに驚いて個人輸入を試みたところ、メーカーからは日本国内の代理店を通すようにと断られるばかりであった。実物を見るため、K市にある代理店を訪れた折、カメラ用アクセサリーの一部がその代理店で扱われていないことを知り、せめてそのアクセサリーだけでも安く、とメーカーへ問い合わせたところ、代理店で扱われていない部品に限り直販に応ずる旨返答を貰ったことがあった。ところがひと月もしないうちに、頼みもしないカタログが当の代理店から送られてきて、出向いた折には取り扱われていなかったアクセサリーがやはり倍近い価格で掲載されていた事実がある。もはや個人輸入が不可能になったことを報せるカタログ送付事件(?)であった。当のアクセサリーを個人輸入しようとしていた日本のアマチュアが倍の出費を余儀なくされたかもしれないと考えるとまさに藪をつついて蛇を引っぱり出した筆者の責任であり、申し訳なく思っている。

 それにしても冷却CCDカメラの価格は高価すぎる。メーカーは直販に応じてくれないので日本国内の代理店を通して買わねばならないのが現状であるが、ABCスマイルはじめ、輸入代行業者があるので問い合わせられたい。うまくいけば現地価格に近い価格すなわち日本国内価格の半額程度で入手できるかもしれない。その場合、むろんアフターケアは望めないし、輸入に関するトラブルもあり得るのであくまで自己責任において試していただきたい。

 ソフトウェアに関しては現在まですべて個人輸入で済ませており、ハードとソフトとで扱いが異なっている貿易関係の事情については全く不明であるが、現在国内価格の約半額で直販されているソフトウェアがCCDカメラのように代理店を通さねば買えないことにならぬよう祈るばかりである。

3. カメラ制御用パソコンの内部時計

 FITSフォーマット画像では通常そのヘッダーに露光開始時刻、露光終了時刻、露光時間等が記録される。Astrometricaはそれらを読み込んで露光中央時刻を計算し、測定に使用する。念のため露出開始時刻と露光時間をあらかじめ正確に合わせた時計で記録しておき、ヘッダーに記録される時刻が露光開始時間なのか、あるいは終了時刻なのか、また、露光時間が正確かどうかを確認しておかねばならない。

 ヘッダーに記録される時刻はパソコンクロックの示す時刻である。精測には1秒(正確には0.86 秒、すなわち十万分の一日)の精度が求められるので、パソコンのクロックを撮影開始直前に正確に合わせておく必要がある。

 筆者はシェアウェアであるJapan Standard Timeと目覚ましタイプの電波時計を併用している。屋外観測には携帯電話による117時報の利用が有用であろう。http://www2.crl.go.jp/cgi-bin/JST.cgiのシステムはNTP(Network Time Protocol)によりWWWサーバの時計を日本標準時に合わせ、その時計を表示している。より正確な時刻を必要とする掩蔽観測法の書を一読されたい(早水 勉:新しい時刻保持技術「GHS時計」の開発、天界、445~449ページ、2000年7月号)。

 パソコンの内部時計は狂いやすい。観測中の数時間に数秒狂うことさえあるのでたびたびあわせ直すことが必要である。露光中は迷光を防ぐためカメラ制御用ノートパソコンの蓋を半分ほど閉じるが、完全に閉じてしまうと時刻が大きく狂うことがある。完全に閉じないまでも、蓋のロックキーなどに触れると閉じたのと同様の効果が現れる場合があるので注意が必要である。露光中、頭からパソコンごと暗幕を被ってしまえば迷光防止にもなるし、パソコンを使って別の作業ができるし、冬は暖かい等、具合が良い。

4. 露光時間

 観測対象天体のほとんどは比較的高速に移動しているので、長い露光時間をかけることができない。筆者は14-16等級の暗い彗星に対して通常60-240秒の露光時間を用いるが、観測中に明るさや移動速度を考慮して適宜露光時間を変更している。

 明る過ぎたり、移動速度が大き過ぎる天体には短時間露光を用いる。極端な例として、60秒間に60"を移動した、当時10等級の特異小惑星・1999 KW4に5秒間露光を用いたことがある。

 但し、Astrometricaは露光中央時刻を計算する際に、露光時間を2で割った余りを切り捨てるから、ヘッダーに記録される露光時間が1秒単位の場合(ほとんどのカメラコントロールソフトの仕様がそのようになっていると思われる)、奇数秒の露光時間ではその中央値に0.5秒の誤差を含むことになる。よって、偶数秒の露光時間を用いるのがよい。

 撮影の際、例えばシャッターを開く瞬間が00時00分00秒きっかりであっても、00時00分01秒の寸前であっても、ヘッダーに記録される時刻は00時00分00秒となる。シャッターを開くタイミングにより、1秒の誤差が生じ、Astrometricaの時刻計算法と併せれば最悪1.5秒の差を生じることになる。但し、これは超高速で移動する天体(地球に接近中の特異小惑星や人工衛星など)を観測するときにのみ問題となり、通常ここまで神経を使う必要はない。

 露光時間が短いほど測定精度が上がりそうに思えるが、彗星、比較星ともにその画質(S/N)が低下し、測定精度が落ちるケースがある。逆に、画質を上げようと長時間露光を行った比較的速い彗星の測定精度が案外良好であったり、原因については未だよくわからないが、やはりS/Nの高いことが重要だと考えている。

 例えば、現在最も普及していると思われるSBIG社のST-7, 8(E)はそのピクセルサイズが9ミクロンの正方形である。さらに、ABG付きのものは無しのものに比べて感度が低下する。これらを補うため、2x2ビニングを行うと面積が4倍、感度も4倍になり、すなわち限界等級が4÷2.5=1.6等アップする。露光時間を2.5倍かければさらに1等級のアップが見込まれる。Guide to Minor Body Astrometryではピクセル解像度2"を推奨しているが、観測仲間同士の情報交換により、5-6"のシステムでも充分精測になることを検証済みである。口径が小さくても、ビニングと長時間露光を使用することによって暗い彗星まで写し取ることができるのである。

 長時間露光により写野中の恒星の多くがブルーミングを起こし、比較星を選ぶのに苦労する場合がある。

 明るい彗星を適正露光で撮影した場合でも、そのコマ形状の複雑さゆえにどうしても正しい光学重心(核が存在すると考えられる最も明るい部分)を求めることができない場合がある。これは彗星に固有な形状によるもので、解決法はない。

5. カメラの回転角

 カメラと望遠鏡との接続は画面の上が常に北になるようにセットしておくのがよい。測定時のみならず、ステラナビゲータ等のプラネタリウムソフトを併用し、撮影画像とプラネタリウム画像を見比べて構図を決めるときにも便利である。

 例えばドイツ式赤道儀に載せたニュートン反射鏡筒を使う場合では、鏡筒を回転させて接眼筒の光軸と赤緯軸とを平行にし、カメラ画面横方向と鏡筒の長軸方向とを平行にする。接眼筒を極軸側に置けばバランスウェイトの軽減にもつながる。こうすれば画面の上が必ず北か南のどちらかになるから、試験撮影を行って調べておく。

 鏡筒の重心を、極軸に対して東側または西側に置くかによって画面の南北が逆転するので、そのつどカメラを180度回転させる(但し、フラットフレームを撮り直す必要がある)。接続の都合上、やむを得ず南北が逆になったり、90度回転することが避けられない場合、どの向きに回転しているのかを記録しておけば、画面の方向は測定前にソフトウェア的に変更させることができるので問題ない。中途半端に傾いていると測定時に苦労することになる。

 

(3)Astrometricaならびに比較星表の入手法

Astrometrica(DOS版 Version 3.26):

 作者であるHerbert Raab氏のサイトからシェアウェアとしてダウンロードできる。

 2003年4月現在、このDOS版はフリーウェアとなり、ライセンスを取得せずともその全機能が使えるようになった。

HST-GSC 1.1:

 かつて、国内の天文関係ショップで入手できた(CD-ROM・2枚組、10,000円程度)。位置精度はあまりよくないが(殊に南天)使い勝手はよい。色指数の情報が無いので正確な光度観測には使えない。16等級まで。現在は市販されなくなり、フリーデータとして下記からダウンロードが可能であるが、これらデータの解凍にはUNIX (Linux)系のコマンドが必要でありWindowsやMacユーザには敷居が高いかもしれない。その方面に明るい方は試していただきたい。

 http://adc.gsfc.nasa.gov/adc-cgi/cat.pl?/catalogs/1/1220/

 ftp://adc.gsfc.nasa.gov/pub/adc/superseded/1/1220/

 HST-GSC 1.1がフリーデータとしてダウンロードできる事実から、CD-ROM を友人・知人から借り受けて利用することは合法と思われるが、詳しく調べたわけではないことをお断りしておく。

GSC-ACT:

 HST-GSC 1.1を改良し、位置精度を高めたもの。多くの観測者がこれを使っていると思われる。

 GSC-ACTファイルと情報のページから gsc_act.zip をダウンロードし、解凍されたファイルを用いて上記 HST-GST 1.1をGSC-ACTへ変更することができる。門田健一氏に無理をお願いし、作成していただいたバッチファイル No.1、No.2を掲載してあるので、HST-GSC 1.1・CD-ROMをお持ちの方にはご利用願いたい。

 以下のリンクボタンを押し、表示されるテキストを全てコピーしてエディタに貼り付け、それぞれGSCACT1.BAT、GSCACT2.BATの名前でgsc_act.zipの解凍されたフォルダに保存する。HST-GSC 1.1・CD-ROM No.1をドライブにセットし、MS-DOSモードからGSCACT1と入力すると、指定のドライブにGSCACT1ができあがる。HST-GSC 1.1・CD-ROM No.2についても同様の作業を行う。

 その後はCD-RMOにバックアップコピーをとっておくとよい。

GSCACT1.BAT
GSCACT2.BAT

 Herbert Raab氏のサイト「GSC-ACT CD-ROM・2枚組を実費 (US $11程度らしい) で配布する」とあるので、希望者は氏にメールで問い合わせられたい。

GSC-ACTの必要部分のみをダウンロードする:

 http://vizier.u-strasbg.fr/cgi-bin/VizieR?-source=GSC-ACT へアクセスする。

【Maximum Entries per table】に希望する星数を入力する(デフォルトでは 50)。
【Output layout】はascii tableにチェックを入れ、
【Target Name (resolved by SIMBAD) or Position】にはプレートセンターの赤経・赤緯値を04 48 00 +50 33 00のごとき書式にて入力し、
【Sexagesimal】をチェックする。
【J2000(分点)】はそのまま、写野範囲には実画面よりやや大きめの値を入力し【Box size】をチェックする。
【Output preferences for Position】ではPositionのみをチェックし、
【Query by Constraints applied on Columns・Show】ではGSCPmagのみをチェックしてから【Submit Query】ボタンを押すと
以下のような表が現れるので、コピーしてエディタに貼り付け、一旦保存する。

Full    _RAJ2000     _DEJ2000       GSC      Pmag
         "h:m:s"      "d:m:s"                 mag 
   11  04 47 59.13  +50 33 10.4  0335100351  11.10

 Astrometricaは「星名」(1-13 カラム)、「赤経」、「赤緯」、「光度」情報がそれぞれ半角スペース一つ以上で区切られたテキストファイルを星表データとして読み込むことができる(付属マニュアル 7.01)。


Column:  1         2         3         4         5         6
123456789012345678901234567890123456789012345678901234567890
------------------------------------------------------------
GSC 240601508 05 59 46.35 +31 04 39.9 12.34

 先の手法で保存してあるテキストファイルを以下のように編集し、*.CATの名前で後述する「Astromet」ディレクトリ内に保存する。「星名」番号の先頭には「GSC」を加え、番号先頭の「0」を削除して、代わりに半角スペースを入れる。


GSC 335100351 04 47 59.13 +50 33 10.4 11.10

 筆者が試みたところ、「0」の代わりに半角スペースを入れることなく読み込むことができた。「星名」が13桁内に収まればよいようである。詳細は付属マニュアルを参照されたい。

 後述するOptions-Star Catalogの項目ではOther (ASCII)を選択する。測定完了後、自動的に作成される「CREPORT.TXT」には「GSC-ACT」を使用した旨明記しておく。

USNO-SA2.0:

 アメリカ海軍天文台へ電子メールでリクエストすると無料で送られてくる。CD - ROM 1 枚。22 等級まで。使い勝手があまりよくなく(Windows版・Astrometrica 4.xには適している)、送られてくるまでに数ヶ月を要するが、無料というのは魅力である。

 

(4)Astrometricaの初期設定

 作者であるHerbert Raab氏のサイトからAstrometrica Shareware, Version 3.26 (357 kB)(2003年4月現在ではフリーバーション。Classicと銘打たれている)をクリックするとClassic.zipがダウンロードできる。Cドライブ上に解凍するとさまざまなファイルやサブディレクトリが入ったClassicディレクトリが作成される。筆者はこのディレクトリ名をClassicからAstrometへとリネームした。ここはどのような名前にしてもかまわない。以下の説明には筆者の設定をそのまま用いる。

 Astrometrica付属のHgxmouse.exeを一度動作させるとマウスが使えるようになる。

 Astrometディレクトリの下に、画像を入れるCCDサブディレクトリと軌道要素を入れるELMサブディレクトリをあらかじめ作成しておく(フリーバージョンではこれらが練習用のデモイメージ、画像ファイル、軌道要素、ASCIIタイプ星表などとともに当初より含まれている)

 WindowsからMS-DOS プロンプトを起動し、USを入力して英語モードに切り替える(Astrometricaは英語モード上で動作する)。「Astromet」ディレクトリへ移動して「Astromet」を入力し、Astromet.exeを起動すると、最初の一回だけ「設定ファイルが見つからないのでデフォルト値を使用する」という警告が出るが、かまわず「OK」を押す。

 起動したら、まず最初に「Options」メニューの設定を行う(付属マニュアル:6.03 参照)。

Options-Directories:画像ファイル収納ディレクトリ、画像ファイル名拡張子、軌道要素ファイル収納ディレクトリ、軌道要素名拡張子、比較星表収納ディレクトリを設定する。デフォルトでは「\CCD\」「*.ST?」「\ELM\」「*.ELM」「D:\;E:\」となっている。筆者の設定を以下に記す。

「CCD Directory:」     「C:\ASTROMET\CCD\」
「CCD Extension:」     「*.F*」
「Elem Directory:」    「C:\ASTROMET\ELM\」
「Elem Extension:」    「*.ELM」
「GSC/SA Drive(s):」   「C:\GSCACT\」

 複数の星表を切り替えて使いたい場合、ディレクトリ名をセミコロンで区切って入力する。例:C:\GSCACT\;C:\TYCHO\

 筆者はCドライブ上にGSCACTという名前のディレクトリを作り、その中に1枚目の「GSC-ACT」CD-ROMを、ディレクトリの構造を保ったまま全部コピーし(「C:\GSCACT\GSC\」、「C:\GSCACT\TABLES\」の二つのサブディレクトリができあがる)次に2枚目のCD-ROMを開き、「GSC」ディレクトリ内の全ファイルを「C:\GSCACT\GSC\」内にコピーした。「TABLES」の中身は2枚とも同一内容なので重ねてコピーする必要はない。

Options-Observatory:「Western Long.」観測所の西経(度の単位で。例では観測所の位置を東経 135.4852 度とする)、「Northern Lat.」観測所の北緯(度の単位で)、「Height」海抜、「Time Zone」(-9 h)、「Observat. code」天文台コード(未取得の場合、XXX)を入力する。観測所の位置には世界測地系を用いる。小型GPSをお使いの方は初期設定で測地系を、TokyoからWGS-84へ変更すればよい。なお、従来の日本測地系と世界測地系との差は距離にして数百メートルである。測地系のミスよりも、パソコンクロックのズレの方が影響が大きい。

 List Of Observatory Codesで天文台コードの一覧を、Mapping the IAU/MPC observatory codes using Internet resourcesでその所在地を地図表示させることができる。

「Western Long.」には360-観測地の東経、すなわち西経224.5148度として入力する。

 AstrometricaはFITSヘッダーに記録された露光開始時刻と露光終了時刻との組み合わせ、または露光開始時刻(もしくは終了時刻)と露光時間の組み合わせから露光中央時刻を計算する。FITSヘッダーの時刻は通常UTで記録されているはずである。Astrometricaはその時刻をローカルエリアタイムすなわちJSTとみなし、「Time Zone」に入力された値(-9 h)を加算する。但し、ヘッダーのキーワード先頭にUTがある場合、この処理を行わない。

筆者のFITSヘッダーは

Keyword          Value          Description
EXPTIME          60.            Exposure time in seconds
TIME-OBS         14:01:14       HH:MM:SS Observation start time, UT

のようになっており、UTで記録されてはいるものの、キーワードの先頭に「UT」がないのでJSTとみなされ、実際より9 時間を減じた観測時刻が計算されてしまうため、位置推算の時刻がズレてしまい、後述の比較星選択時に画像と星図が一致しないし測定もできない。このような場合、「Time Zone」に入力する値を-9hから0hに変更する。

カメラコントロールソフトにより仕様が異なるので確認を要する。

「Telescope」の欄には0.30-m f/6 reflectorのような、報告時の慣例となっているこの形式(アメリカ式方言?)で入力することが多い。これは義務ではないので、30cm F6 Newtonianとしても別段差し支えないと思うが、報告すれば勝手にアメリカ式に変更されてしまう模様である。「Observat. Name」には好きな名前を入力してよい。報告書には反映されない(Fig.1)。

【Fig. 1 観測所情報を入力する】

Options-CCD:FITSを選択する。ピクセルサイズ、焦点距離(レデューサーを組込んだりして正確にわからない場合は大雑把でよい。一つの天体を測定すると焦点距離情報が得られるから、あとはその値を使うことができる)、測光バンド(小惑星測定時にのみ後述の「CREPORT.TXT」に反映される)を入力する(Fig.2)。

【Fig.2 カメラ・光学系情報を入力する】

Options-Star Catalog:HST-GSCを選択する。

Options-Setting:「Zoom」の項目はMediumが使いやすい。「Data Reduction Limits:」の項目には「これ以上の残差を示す比較星を棄却する」ための数値を入力する。「Astrometry」には0.6"程度が適当と思われる。

Options-User:氏名、住所を入力する。License Key ファイルが必要。US $25(2001年10月現在)相当のユーロを国際郵便為替(現金も可だが、手数料が高くなる)で作者に送金し、ユーザー登録を済ませるとメールで送られてくる。これがないと比較星が4個までしか採れず、満足な測定ができない。マニュアルにはドルを送金するよう記載されているが、日本から欧州向けにはユーロ建てでのみ送金可能である。作者から拒否されることはない。手数料は1000円程度であった(既に述べたように、2003年4月現在、DOS版にはユーザー登録が不要である)

 筆者が送金手続きを終えた直後、作者宛てメールにて登録料を送金した旨連絡すると数日後にLicense Keyが電子メールにて送られてきた。US $25はまだ作者に届いていないはずである。Herbert Raab氏の、観測者仲間を疑わない姿勢が嬉しく感じられたことだった。

Ephem-Edit Elements:「Comet Type」または「Planet Type」を選択し、軌道要素を入力する。保存するファイル名は自分だけにわかる名前でもよいが、なるべく天体符号.ELMの形式に統一しておくべきである。後述する、木下氏のサイト以外から得た軌道を使う場合にこれを行う。

 

(5)軌道要素と関連するユーティリティの入手および使用法

 木下一男氏のComet Orbit Home Pageにはアマチュアに観測可能な彗星・小惑星の軌道要素が掲載されており、月に二度更新される。ステラナビゲータ他、プラネタリウムソフト向けフォーマットもある。

 氏のサイト上でASTROMETRICA formをクリックすると現在観測可能な約 50 個ほどの彗星・小惑星について軌道要素が表示される。ブラウザに表示された画面全部をコピーし、エディタに貼り付けて適当な名前(更新された日付、例えばASTELM1010.TXT等)をつけ、「C:\ASTROMET\ELM\」ディレクトリ内に保存する。

 氏のサイトが現在閉鎖中のため【2003年末より再開された】、2001年12月20日に筆者がダウンロードしたものを下記に置くのでご覧頂きたい。

ASTELM1220.TXT

 鈴木雅之氏のアストロメトリカ用ファイルコンバーター(Ver.2.1)では木下氏の軌道要素をAstrometricaで使えるよう、一行ずつに分解するソフトウェアConv2.exeのソースが入手できる。「Conv2.exe」を「C:\ASTROMET\ELM\」ディレクトリ内にコピーし、DOSモードからConv2 ASTELM1010.TXTと入力すると、「ASTELM1010.TXT」に含まれる全ての天体軌道要素がAstrometricaで読める形式に分解、保存される。「*.ELM」ファイルは一つの天体につき一つであるから、「天体符号.ELM」の名前がついたファイルが50個程度できあがることになる。ソースのコンパイルができない場合は「ASTELM1010.TXT」の一行を切り取って新規ファイルに貼り付け、「天体符号.ELM」の名前で保存する。

 鈴木氏は2002年2月にこのコンバーターを4.0へバージョンアップされ、さらにはソースファイルではなく、実行ファイルが氏のサイトから直接ダウンロードできるようになった。Conv4.exeはMPCに発表される彗星・小惑星軌道要素をそのままAstrometricaで読み込めるように分解する。詳細は氏のサイトで確認されたい。

 これを最初に行うと天体名と天体符号の規則を理解するのに役立つと思う。

 観測準備ならびに観測中の便宜のため、筆者が好んで使っている「木下氏の軌道要素をステラナビゲータVer.5(以下、ステラナビと略す)へ取り込む方法」を以下に紹介しておく。P>  ステラナビ付属の彗星ファイルはデフォルトで「STLCMT.ELD」である。木下氏の軌道要素をこれにインポートすることも可能だが、表示させたい彗星を選ぶのに難儀するし、のちに、より新しいデータをインポートする際に混乱を起こしやすいので避けた方がよい。ここでは常時使用する天体のみを収納する彗星ファイル「STLELS.ELD」を新規作成する方法を述べる。

 木下氏のサイト上でSTELLANAVIGATOR formをクリックし、表示される内容をコピーし、エディタに貼り付けて適当な名前「STLELM1010.TXT」を付け、どこでもよいが、例えば「マイドキュメント」ディレクトリ内に保存しておく。

「C:\PROGRAM FILES\ASTROARTS\CORSTL」ディレクトリを開き、右クリック→新規作成→テキスト文書でSTLELS.ELDという名前の空ファイルを作成する。Windows画面上にはテキストファイルであることを示すアイコンが表示され、DOS上ではこれのファイル名が「STLELS.ELD.TXT」となっているから、DOS モードからREN STLELS.ELD.TXT STLELS.ELDを入力してリネームする。Windowsに戻るとアイコンが消えているはずである。

 ステラナビを起動し、ツールメニュー・環境設定ダイアログを開く。軌道要素ファイルの【彗星】から【参照】ボタンを押し、作成したSTLELS.ELDをクリックして【開く】ボタンを押す。【天体】メニューから【彗星】ダイアログを開く。【インポート】ボタンを押し、【ファイルの場所】で「マイドキュメント」を指定する。ファイル名に「*.TXT」を入力してリターンキーを押すと「STLELM1010.TXT」が表示されるのでクリックし【開く】ボタンを押すと自動的にインポートされて「STLELS.ELD」に取込まれる。日本語の天体名は表示されないので【彗星】ダイアログで【名称表示】を【英語】に設定する。すべての彗星・小惑星を表示させておけば観測予定を立てるときに大いに役立つ。

 月刊星ナビの「上尾ニュース」に載る天体の最新軌道要素がダウンロードできるので、ステラナビのユーザーは活用されたい。Orbit Data Service / StellaNavigator Ver.5 からダウンロードできる。

 

(6)観測の実際

 移動天体が相手であるから、移動が確認できる程度のインターバルを空けて最低2フレームから数フレーム撮影する。動きが極端に遅い場合は二夜にかけて同じ位置を撮影し移動を確認するのが原則だが、突然雲って1フレームしか撮れないケースもあり得る。明らかに彗星状であり、目的の彗星であることが確実であれば、その光度、集光の程度、尾の有無等の情報を添えて1個だけ報告しても差し支えないと思う。

 撮影直後にまず画像をよく調べる。機材の限界等級に近い彗星はフレームによって写ったり写らなかったりするし、あるいは薄雲の通過や不良シーイングの影響により像が乱れたり、彗星が恒星に近接していたりすると正しく測定できないので適宜撮影枚数を増やす。複数画像をブリンクさせて移動を確認し、さらに全画面を見渡して予想外の移動天体がいないか確認する。怪しい天体を見つけた場合はMPCheckerにアクセスして既知の天体ではないかどうか調査する。銀河が写っていたら超新星を探してみよう。

 目的天体が写らなかった場合や、狙う天域を間違えて撮影した場合等でも、その画像がのちに役立つことがあるのでむやみに削除すべきでなく、観測ノートにはプレートセンターの赤経・赤緯値を大雑把でよいから記録しておくとよい。

 

(7)画像の一次処理

 ダークフレームはあらかじめ撮影しておくのがよい。頻用する冷却温度の前後2~3℃で4~5フレーム撮影し、メディアンコンポジット画像を作っておく。観測時におけるカメラのコンディションは常に一定とは限らず、露光時間によってもCCDチップの平均温度が微妙に変動するため、筆者は-18℃、-19℃、-20℃、の3種類にて、頻用する露光時間・30秒、60秒、120秒、180秒、240秒のダークフレームを用意している。

 ダークフレームを用意していない露光時間を用いる場合にはオートダーク補正を使うか、または観測の直前あるいは直後にダークフレームを撮影する。オートダーク補正ではオリジナルのライトフレームが残らず、ダーク補正のやり直しができないので薦められない。ダークフレームはいつでも取得できる。一度きりしか撮れないライトフレームを単独で保存することが重要なので、それさえ可能ならばオートダーク補正を利用することについては問題ない。

 フラットフレームは原則として一つの天体の撮影を終えるごとに撮影する。但し、複数天体を続けて観測する場合に、それらの位置が近ければ(鏡筒の姿勢変化が小さければ)フラットフレームは一種類を兼用できることがある。望遠鏡を大きく振った場合や、殊に望遠鏡とカメラの接続部分に動きがあった場合にはそれぞれについてフラットフレームが必要である。筆者は鏡筒蓋と3ミリ厚の乳白色アクリル板を利用したディフューザー(事情を話してメーカー【宇治天体精機】社長・村下氏に作ってもらった)を被せ、白熱電球で照らしたドーム壁面が鏡筒の狙う方向にくるようにした状態でフラットフレームを取得している。16ビット階調のカメラでは最大カウントの1/3程度(20,000前後)が適当である。フラットフレームも4フレーム程度撮影し、メディアンコンポジット画像を作って保存する。

 

(8)測定

Ephem-Load Elements:測定する天体の軌道要素を選択、決定する。(Fig.3)

【Fig.3 軌道要素を選択する】

File-Load Image:CCDディレクトリ内に測定する画像をあらかじめコピーしておき、それらの中から通常撮影時刻の早い順に画像を選択する。長いファイル名ではその全部が表示されないので、自分にわかる範囲で短縮しリネームしておく。(例えばC2000WM1-01.fitならWM1-01.fit等)

 画像を読み込むと露光中央時刻が計算、表示される。撮影時刻にズレのあることがわかっており訂正せねばならない等、特別な事情がなければここでは観測者(または測定者)氏名欄のみを最初の一度だけ入力すればよい(Fig.4)。観測者氏名はこのとき自動入力されるはずだが、筆者が異なるディレクトリに同一バージョンをセッティングし試みたところ、うまくいくこともあればそうでないこともある。バグと思われる。

【Fig.4 画像情報が表示される】

Utility-Background & Range: Utility-Scale: Utility-Smooth: Utility-Median:

 測定画像には一次処理以外の画像処理を施さないのが原則である。

 Utility-Background & RangeとUtility-Scaleはいわゆるストレッチ処理であり、測定精度に影響しないのに対し、Utility-SmoothならびにUtility-Medianは表示画像の劣化を防ぐが、ピクセルカウント値に影響を与え、測定精度の低下を招く恐れがある。筆者はUtility-Smooth を必要に応じて用いているが、これらのコマンドを用いることなく測定できるよう、正確な一次処理に習熟すべきである。

Measure-Select Reference Stars:比較星を選択する。表示される星図の中心位置と写野角(やや大きめに設定される)、星表の限界等級等が表示される(Fig. 5)。

【Fig. 5 星図情報が示される】

 彗星が写野中心から大きく外れている場合や、高速移動天体の同一構図・複数画像を一回の比較星選択で済ませたいとき等は、写野角をさらに大きく編集する。暗い星まで写っていないことがわかっている場合には、限界等級を適宜変更する。

 モニター左半分に星図、右半分に画像が表示され、星図上、軌道要素と観測時刻から計算される彗星の位置に小さな十字線が現れる(Fig.6)。

【Fig.6 左側に星図、右側に画像が表示される】

 彗星を小さく取り囲むよう、光度は明暗取り混ぜて少なくとも6-8個以上の比較星を選択する(最大12個まで採れる)。

 右に表示される画像と照らし合わせ、良好でない比較星(明るすぎてブルーミングを起こしている星、逆に暗すぎてS/Nが低い星、重星であるかあるいは光学系の収差により星像が歪んだもの等)を除外する。ブルーミングを起こしていなくても、明るい星は近距離にあって固有運動が大きいと考えられるから、避けるのが無難である。

 比較星情報にNonstellarすなわち非恒星状天体と表示されているものの多くは銀河であって、重心が求めにくいから(固有運動の心配はないが)これも避けるのが無難である(Fig.7, 8)。

【Fig.7 比較星の選択中】

【Fig.8 比較星の選択完了時】

 ここで表示される画質はオリジナル画像のそれよりもかなり劣化するので、オリジナル画像の状態を記憶しておくか、画像処理ソフトで表示させておくとよい。わかりにくい場合は適宜切り替え(Alt+TabでDOS, Windows間を往復できる)オリジナル画像を見ながら作業を行う。

Measure-Position and Mag

Measure Background:星の写っていない領域に測定枠を置き、リターンキーを押す。測定枠をなるべく広くし、写野中心付近にもってくるのがよいが(文献 小島卓雄:冷却 CCD による彗星/小惑星の観測 INTERACTIVE ASTRONOMY Vol.3:99~108,1995)筆者はデフォルトサイズ(13x13)で行っている。

Measure Object Mag:F1, F2, F3, F4キーで測定枠サイズを変え、彗星を取り囲む。F8キーで拡大し、測定枠のサイズと位置をなるべく正確に決定してリターンキーを押す(Fig.9)。

【Fig.9 光度の測定】

 コマを取り囲むピクセル数を示す測光枠サイズは、あらかじめ画像処理ソフトでコントラストを上げて測定しておいたピクセルサイズを用いる(ここでは31x31)。最大枠サイズに限界があるので、大きい彗星では全光度を測ることができない場合がある(最新バージョン・3.26 ではかなり拡大され、全光度の測定が可能になった。但し、F8キーを押す前に枠サイズを縮めることを忘れるとフリーズする)。その場合は光学系の焦点距離短縮、ビニングの使用、あるいはAstrometricaを使わない別の手法が必要となる。Fig.9には間違いがある。F7キーを押してスケーリングを行い、最も明るい部分を中央に置いて測光せねばならない。

 ここでは割愛するが、鈴木雅之氏のサイトに光度測定法が詳しく書かれているのでご覧頂きたい。GSC星表は光度の精度が悪いため、いくら正確に作業してもその結果が参考程度としてしか扱われないことは残念である。

Measure Object Position:まず、上記と同様の作業を行う。ここでの目的は、彗星の核近傍と考えられる最も明るいピクセルを見出し、周囲のピクセルと併せて光学重心の位置を決定することにある。

 測光時よりも測定枠を小さく、ここでは11x11にして彗星の核近傍と思われる明るい部分に中心を合わせ(Fig.10)、F7キーを押すと最も明るい部分が明瞭になってくる(Fig.11)。F7キーは測定枠内の最も暗い部分を0、最も明るい部分を100とした画質調整(スケーリング)を実行する(文献 小島卓雄:冷却 CCD による彗星/小惑星の観測 INTERACTIVE ASTRONOMY Vol.3:99~108,1995)。

【Fig.10 測定枠を縮め、スケーリングの準備中】

【Fig.11 スケーリングにより明るい部分が浮き出てくる】

 測定枠を明るい部分に移動させ、さらにサイズを縮めて(ここでは 5x5)F7 キーを押す作業を繰り返すと、最後に最も明るい部分が残る(Fig 12)。

【Fig.12 スケーリングの完了】

 ここで、一度測定枠サイズを大きく広げてみる(ここでは13x13)。近傍の星像にひっかからないよう注意しながら測定枠を移動したときに、枠内の長い十字点線の交点がある一箇所から動かなければ(Fig.13, 14)測定枠サイズを最小(3x3)にまで縮めて枠の中心点を最も明るい部分に合わせ、リターンキーを押して位置を決定する。

【Fig.13, 14 測定枠を移動させても十字点線の交点が彗星の重心位置から動かない】

 尾やジェット等を含んだ複雑な形状を持ち、上記作業を行っても最も明るいピクセルが明瞭に現れない彗星では光学重心の決定が困難である。そのような場合、測定枠をやや大きめ(5x5~7x7)にして最も明るいと思われる部分を測定枠で囲み、あとはソフトウェア任せにせざるを得ないこともある。測定精度は当然の事ながら悪化する。

 仮に測定枠サイズを1x1ピクセルとすれば、測定結果に最大でピクセル解像度の半分の誤差が含まれることになる。複数のピクセルを使用すれば、それぞれのピクセルに乗った光量の平均から光学重心が計算されるのでピクセル解像度以下の精度が得られる。但し、大きすぎる枠サイズでは、そのプロファイルが綺麗な対称像を示さない彗星の場合、光学重心が尾やジェットなどに引きずられて測定精度が悪化する。以上を考慮すると、位置決定に使用するサイズは3x3ピクセル程度が適当と考えられる。

 逆に、F8キーで拡大し、一度F7 キーを押しただけで最も明るい1ピクセルが明瞭に認識できる彗星ではスケーリング作業を簡略化することが可能であり、測定精度も概ね高い。

 このように彗星の位置測定は難しい。練習のためには、彗星ではなく軌道のよく定まった、メインベルト上を運動する小惑星を観測することが実は正しい順序である。Guide to Minor Body Astrometryは400番から3000番台の番号登録小惑星のうち、特異小惑星や高速で移動する天体以外の観測を薦めている。

Measure 1.Reference Star:軌道がよく定まった彗星を測定する場合、測定枠が自動的に第一比較星付近へ移動する。入力した軌道が古い場合、あるいは写野の向きが赤道の南北方向からズレている場合にはうまくいかないので、先に表示された星図上で選択した比較星と画像上の恒星の並びをよく記憶しておく必要がある。

 余裕をもって恒星を取り囲むよう、測定枠サイズを適宜変えながら F8、F7キーで光学重心を定め、リターンキーを押す。光学重心を求める作業は像の不良な比較星を採らない限り、彗星よりもよほど簡単である。以下、選択した比較星を同様の手順ですべて測定する。良好な一次処理の結果、バックグラウンドが充分美しければ(理想的な画像の場合)恒星を測定する枠サイズは理屈上大きいほど(近接する微光星にかからないように注意)その精度が良くなる。そのような美しい画像を得ることは簡単でなく、比較星よりも僅かに小さめの枠サイズを使用して位置精度を上げているのが現状である。

 全比較星を測定し終えると、比較星ならびに彗星の位置・光度残差が表示される(Fig.15)。これらの情報がASTROMET.LOGという名前のテキストファイルに保存される。

【Fig.15 測定結果が表示される】

 まず、比較星の測定残差に注目する。画像上問題ない比較星の測定残差が大きい(セッティングにもよるが、0.6"ないし1.0"以上)場合は星表の誤差と判断し、Measure-Recall Reference Starsコマンドを用いてその比較星を除外し、再測定する。

Options-Setting:「Astrometry」に 0.6"が入力されていれば、0.6"より大きい残差を示す比較星は棄却されて測定に使用されず、比較星の平均残差に影響しない。従って、8個の比較星を選んで2個が棄却されても6個の比較星が残り、充分な測定精度が確保される。

 何らかの理由により、多数の比較星が棄却されて驚くことがある。Astrometricaは棄却されない比較星が4個未満の場合、全比較星を使用してしまうため、平均残差が大きくなって報告に使えなくなる。このような場合、比較星を少な目に採って再測定すると棄却される比較星が減少し、漸次比較星を増やすことでうまくいく場合がある。

 測定に使用された比較星数が充分(5-6個以上)あり、その平均残差が赤経・赤緯ともに0.3"以下ならば、充分精測に使える観測システムであると判断できる。1"以下でも精測といってよいかもしれない。1"を大きく越える場合は準精測と考え、測定結果を一桁まるめて報告することになる。

 

(9)測定精度の判定

 彗星の測定残差・O-C(観測値と計算値との差)を気にする必要はなく、複数画像の測定から計算・表示される残差のバラツキに注意する。バラツキの大きいことは撮影時の追尾エラー、シンチレーションの悪影響、あるいは測定ミスを意味するので、画像をよく調べた上で再測定するか廃棄するかを決定する。バラツキは小さいに越したことはないが、ピクセル解像度の1/2以下(小惑星など恒星状天体では1/10以下)に収まれば安心してよい。

 以下にASTROMET.LOGから、今回4フレームを測定したC/2000 WM1 (LINEAR)の測定残差を抜き出して測定精度を検討してみる。


ASTROMET.LOG

       C/2000 WM1       04 48 07.14  +1.8  +50 37 46.3  -0.3  11.27
       C/2000 WM1       04 48 06.96  +2.0  +50 37 45.5  -0.3  11.31
       C/2000 WM1       04 48 06.82  +2.1  +50 37 45.2  -0.1  11.32
       C/2000 WM1       04 48 06.69  +2.2  +50 37 45.0  +0.3  11.31

 赤経残差のバラツキが最大0.4"(+1.8"から+2.2")、赤緯では最大0.6"(-0.3"から+0.3")であるからピクセル解像度2.7"のおよそ1/5をクリアしており、測定に問題がないと判断できる。

 彗星が暗くて充分なS/Nが得られなかったり、彗星の移動量が大き過ぎる等、悪条件のため再測定してもバラツキが小さくならず、観測に自信が持てないときは原則として報告すべきでないが、筆者はそのような場合でも、どれくらい観測が悪いかを知りたくて報告することがある。軌道計算者には迷惑かもしれないし、自身の観測者としてのレベルを自ら貶めることにもなるから、ここは観測者自身で判断すべきであろう。

 むろん、残差を小さくするような恣意的測定や改竄は決してこれを行ってはならないし、そもそも無意味な行為といえる。

 

(10)彗星移動量の判定

 暗く拡散し、移動量の小さい彗星が微光星に近接している場合、その微光星を間違えて測定してしまうことがある。ブリンクで移動が確認できるにもかかわらず、測定の結果、彗星の移動量と比較星の平均残差との間に有意差が認められない場合これを疑う。

 測定結果を赤経・赤緯値別に検討すると、一夜の(比較的短いインターバルの)観測では通常直線的変化を示す。ところが地心距離の小さい明るい彗星でも稀に見かけの動きが極端に小さくなる時期があり、移動量を0.1"の単位で見るとギザギザに動いているように思えることすらあるが、彗星の移動量と比較星の平均残差との比較から検討することができる。

 以下は2001年10月12日、見かけの動きがほとんど停止しており、複数画像ブリンクによる移動の目視確認が不可能であったC/2000 WM1 (LINEAR)の測定結果である。


ASTROMET.LOG
1      C/2000 WM1       04 57 18.59  +3.7  +51 11 36.3  -0.9   11.61
2      C/2000 WM1       04 57 18.42  +3.6  +51 11 35.2  -1.8   11.57

1    Mean Residuals:  dα  = 0.31"
                      dδ  = 0.25"
2    Mean Residuals:  dα  = 0.39"
                      dδ  = 0.31"

CREPORT.TXT
1   CK00W01M  C2001 10 12.57654 04 57 18.59 +51 11 36.3                      340
2   CK00W01M  C2001 10 12.58363 04 57 18.42 +51 11 35.2                      340

 ASTROMET.LOGより、比較星の平均残差が0.3"程度であり、また、彗星測定残差のバラツキが赤経、赤緯においてそれぞれ0.1"、0.9"と、ピクセル解像度の1/3以下に収まっており、報告に耐える精度であることがわかる。

 CREPORT.TXTより、彗星の移動量は赤経で0.17s(すなわち1.6")、赤緯で1.1"であることがわかる。赤経の秒をarcsecに換算するにはそれを15倍し、赤緯値のコサインを乗ぜねばならないから、赤経移動量は0.17s x 15 x cos 51 (deg.) = 1.6"となる。彗星測定残差、比較星平均残差の単位には赤経、赤緯にかかわらずarcsec(")が用いられる。

 赤経における比較星の平均残差は0.35"程度であるから、彗星の移動量・1.6"はその4.6倍にあたり、有意であると判断した。赤緯における比較星平均残差は0.28"程度であるから、彗星の移動量・1.1"はその3.9倍にあたりこれも有意であると判断した。

 このように、彗星の移動量が比較星平均残差の2~3 倍程度あれば有意であると判定することが可能と思われる。厳密には有意差検定が必要となるが、比較的明るい彗星であれば、前述のように、その形状、移動方向等から、それが本物かどうかを判断できるので、有意差検定までは不要だろう。あくまでも、暗く遅い彗星を観測したときの判定法として述べた。

 ここで表示される比較星と彗星の測定残差はASTROMET.LOGというテキストファイルに保存されるのであとから調べることができるが、彗星測定残差を測定中にメモしておくと測定精度の自己診断に便利である。

Measure-Information:測定終了直後にこのコマンドを実行すると光学系の焦点距離、画面の回転角、空の明るさ(精度は星表に依存する)などが表示される(Fig. 16)。

【Fig.16 さまざまな情報が表示される】

 

(11)自動的に作成されるテキストファイル

 ASTROMET.LOG:プレートセンター、比較星と彗星の測定残差等が記録される。後の参考になるので保存しておく。Astrometricaを終了し、再度起動して測定作業を行うと新しいデータが上書きされてしまうから、オリジナル画像を保存してあるディレクトリ内へコピーしておくとよい。

 CREPORT.TXT:このままで報告に使えるが、使用星表名はGSCをGSC-ACTへ変更する。初めての報告時には観測所の経緯度、海抜情報が必須である。

以下に今回4フレームを測定したC/2000 WM1 (LINEAR)での例を示す。


COD 340
CON Y. Ezaki, 1-2-3 Umeda, Kita-ku, Osaka city, Osaka, Japan, abc@def.or.jp
OBS Y. Ezaki
MEA Y. Ezaki
TEL 0.30-m f/6 reflector + CCD
NET GSC-ACT
COM Long. 135.0000 E, Lat. 35.0000 N, Alt. 3180m
ACK CREPORT file created 2001 11 03, 00:10:28
    CK00W01M  C2001 10 23.60283 04 48 07.14 +50 37 46.3          11.3 T      340
    CK00W01M  C2001 10 23.60520 04 48 06.96 +50 37 45.5          11.3 T      340
    CK00W01M  C2001 10 23.60690 04 48 06.82 +50 37 45.2          11.3 T      340
    CK00W01M  C2001 10 23.60851 04 48 06.69 +50 37 45.0          11.3 T      340

Yusuke Ezaki

 報告書のヘッダーについて以下、簡単に説明するが、間違いがあっても筆者は責任を負わない。詳細についてはhttp://cfa-www.harvard.edu/iau/info/ObsDetails.htmlを参照されたい。

COD 天文台コードを第一行目に書く。まだコードを持たない場合、XXX(大文字のエックス三つ)を書く。

CON センターからの連絡が可能な所在を書く。必ずしも観測地と一致する必要はなく、通常、自宅の情報を書けばよい。

OBS 撮影者の姓名を書く。名のイニシャルを大文字で、姓は頭の一文字のみ大文字、他は小文字で書く。この書式はCON、OBS、MEAの各行すべてに共通である。

MEA 測定者の姓名を書く。

TEL 観測機器について書く。

NET 使用した星表について書く。

COM 普段の観測地ではなく、どこかへ移動して観測したとき、或いは初めて報告する時に用いる。従って、COMの行が必要な場合、CODの行にはXXX(大文字のエックス三つ)を書くことになる。報告を続けているとコードが付与されるので、その後は付与されたコードを用い、COMの行は使用しない。中央局に対し何かを伝えたい場合、この欄を用いる。

ACK この行がなぜ必要か知らないが、Astrometricaが出力してくれるそのままを残せばよい。

 

(12)報告様式

 CREPORT.TXTをmpc@cfa.harvard.edu宛てにそのまま送れば報告になるが、少なくともその内容を理解しておかねばならない。Format For Optical Astrometric Observations Of Comets, Minor Planets and Natural Satellites (以下に簡単に抜粋する)を熟読されたい。また、仮符号の付いた小惑星が過去に観測された天体と同定されたり、太陽に近づいて彗星であることが判明したり、離心率1.0として暫定軌道が計算された新彗星が追跡観測により周期彗星であると確認されたような場合は天体符号が変わるので、たびたび Recent MPECs にアクセスし、間違いのないようにしたい。

 一天体につき一夜あたり2個以上、4個程度以下の測定を報告する。発見されたばかりの新彗星や、長らく観測されていなかった周期彗星を回帰の初期に再観測したような場合、ある程度多い方がよい。

報告する前に、その様式や天体符号の規則等に充分習熟されたい。


天体符号の規則

---小惑星---

Colums
1234567
K02A00A    (2002 AA)
K01OA8G    (2001 OG108)
K00W01M    (2000 WM1)

7文字からなる符号はpacked formと呼ばれ、位置観測報告にはこれが用いられる。

1 カラムは発見年を表す西暦四桁のうち最初の二文字をアルファベット一文字 (I = 18, J = 19, K = 20) に置き換えたもの。
2、3 カラムは発見年・西暦四桁のうち後ろ二つの数字をそのまま。
4 カラムは発見月(前半・後半)のアルファベット一文字でその規則は以下のとおり。"I", "Z" の二文字は使われない。

  Letter     Dates             Letter      Dates
    A      Jan. 1-15             B       Jan. 16-31
    C      Feb. 1-15             D       Feb. 16-29
    E      Mar. 1-15             F       Mar. 16-31
    G      Apr. 1-15             H       Apr. 16-30
    J      May  1-15             K       May  16-31
    L      June 1-15             M       June 16-30
    N      July 1-15             O       July 16-31
    P      Aug. 1-15             Q       Aug. 16-31
    R      Sept.1-15             S       Sept.16-30
    T      Oct. 1-15             U       Oct. 16-31
    V      Nov. 1-15             W       Nov. 16-30
    X      Dec. 1-15             Y       Dec. 16-31


5、6、7カラムは少々ややこしい。

1日から 15日までの間に発見された小惑星では発見順に

「00A, 00B, 00C... 00Z」と 25 個("I"は使われない)まで進み、

 25個を越えた場合「01A, 01B...」と続く。
 50個を越えた場合「02A, 02B...」と続く。

 更に発見が続き、「99Z」の次は「100A」ではなく下記の規則により「A0A」となる。

 数字が三桁になると、その頭二桁が「10: A, 11: B, 12: C...」の規則でアルファベットに変わる。

「2001 OG108」は「K01OA8G」、「2000 WM1」は「K00W01M」となる。
 一般に使われる符号より、パックされた符号の方がむしろ理解しやすい。

---彗星---

Colums
12345678
PK01R020    (P/2001 R2)
CK02C010    (C/2002 C1)
CK01OA8G    (C/2001 OG108)
CK00W01M    (C/2000 WM1)

小惑星と同様、位置観測報告にはpacked formを用いる。

1カラムは軌道の種類を示す「C」・長周期彗星、「P」・短周期彗星を記す。

他に「D」・見失われた彗星、「X」・不確定彗星、「A」・彗星式符号を与えられた小惑星等があるが、
これらを使う機会はまず無い。

2-5カラムは小惑星の1-4カラムと同様。
6-7カラムは連番。
8カラムは通常「0」で、分裂核の場合小文字のアルファベットとなる。

小惑星として符号が付けられ、のちに彗星と判明したものは小惑星タイプの符号の頭に
彗星を示す「C」「P」を付ける。


報告様式

0        1         2         3         4         5         6         7         8
12345678901234567890123456789012345678901234567890123456789012345678901234567890
    CK01A02b  C2001 09 18.61714 20 03 08.55 +16 21 18.5          14.3 T      340
    CK01A02b  C2001 09 18.62646 20 03 08.67 +16 21 14.7                      340
    CK01A02b  C2001 09 18.63352 20 03 08.81 +16 21 11.3                      340
    PK01Q020  C2001 09 18.78028 07 58 30.78 +15 00 48.8          10.9 T      340
    PK01Q020  C2001 09 18.78188 07 58 31.10 +15 00 45.6                      340
    PK01Q020  C2001 09 18.78306 07 58 31.37 +15 00 43.5                      340
    PK01Q020  C2001 09 18.78419 07 58 31.65 +15 00 41.9                      340
    PK01Q050  C2001 09 18.68831 02 07 26.49 +26 08 11.9          15.5 T      340
    PK01Q050  C2001 09 18.69486 02 07 26.46 +26 08 15.5                      340
0016P         C2001 09 18.75616 04 56 05.55 +17 14 24.6          15.6 T      340
0016P         C2001 09 18.76090 04 56 05.94 +17 14 25.8                      340
0019P         C2001 09 18.77226 07 40 02.98 +19 51 01.9          10.4 T      340
0019P         C2001 09 18.77443 07 40 03.43 +19 51 03.8                      340
0019P         C2001 09 18.77571 07 40 03.61 +19 51 04.5                      340
0019P         C2001 09 18.77682 07 40 03.89 +19 51 05.6                      340
26760         C2001 09 18.65686 22 40 28.64 -22 07 36.7          14.9 V      340
26760         C2001 09 18.66594 22 40 29.11 -22 07 39.2                      340
26760         C2001 09 18.66925 22 40 29.50 -22 07 41.4                      340
     J99K04W  C2001 05 19.65686 22 40 28.64 -22 07 36.7          16.1 R      340

小惑星

   Columns
    1 -  5       登録番号。右詰め、左はゼロで埋める。
    6 - 12       符号 (packed form)
   13            新発見マーク(星印)

彗星

   Columns       Use
    1 -  4       登録周期彗星の番号。右詰め、左はゼロで埋める。
    5            軌道のタイプ【P, C, D, X,】
    6 - 12       符号(packed form)
   13            ブランク


   15            P   写真観測(ブランクと同義)
                 C   CCD観測

   16 - 32       観測中央時刻。日の少数(UT)。
   33 - 44       観測値・赤経
   45 - 56       観測値・赤緯
   66 - 70       光度
   71            N・核光度、T・全光度

   78 - 80       天文台コード

 

(13)報告先

 観測の送り先は中野主一氏である。中野氏が国内の報告をとりまとめて中央局(スミソニアン)に転電されていることは周知のとおりである。中野氏に報告しなければせっかくの観測が世界に公にならず、何もしなかったのと同じ結果に終わる。報告には厳密を要求される。中途半端な観測を報告してはならない。

 2003年4月から、他国の観測者と同様、mpc@cfa.harvard.edu宛てに報告することになった。以下のヘッダーを観測にくっつけねばならない。彗星と小惑星とは別個に報告する。

 詳しくは、http://cfa-www.harvard.edu/iau/info/ObsDetails.htmlを参照。

 初報告、または移動観測の際のヘッダー例彗星(小惑星)を示す。

---
COD XXX
CON Y. Ezaki, 1-1-1 Umeda, Kita-ku, Osaka city, Osaka, Japan, abc@def.gh.ij
OBS Y. Ezaki
MEA Y. Ezaki
TEL 3.33-m f/3.3 reflector + CCD
NET USNO-SA2.0
COM Long. 133.3333 E, Lat. 33.3333 N, Alt. 3333m 
ACK COMET (MINOR PLANET)
---
 この観測をスミソニアンに報告すれば、世界で利用され、観測を生かしたことになるが、中野主一氏にも同時に報告することを強くお奨めする。氏による改良軌道が送られてくるだろうし、それによって自身の観測誤差を知ることができる。また、間違ったことを書いた部分に対しては適切なアドバイスが得られるからである。これは日本国内の観測者だけに与えられた特権であるといっても過言ではない。

 軌道計算者である木下一男氏が管理されている(2002年4月現在の管理者は中村 彰正氏 (Akimasa Nakamura) 彗星メーリングリストがあり、位置・光度観測や軌道計算のベテランが多数参加されている。筆者は観測機材を準備する以前からこれに加入させてもらい、有益なアドバイスを多数頂き、現在も学習途上である。この文章のほとんどが先輩達の助言そのものと言っても過言ではない。規約を以下に記すので、彗星観測者は中村彰正氏に連絡を取り、参加されることをお勧めする。

 精測に慣れてきたらまずここに観測を報告するとよい。自分の観測に対する軌道計算者によるO-Cの計算が期待できるし、精測ばかりではなく光度観測や彗星・小惑星の話題は多岐にわたっており、知識が倍増することは間違いない。

 まずは軌道の変化がほとんどない登録小惑星を観測・測定して練習していただきたい。正しく観測できれば、Astrometricaの示すO-Cが、比較星の平均残差に近づくはずである。

**********
彗星メーリングリスト規約            2002年4月4日版

1.趣旨
 本メーリングリスト(以下ML)は、彗星、または彗星に関連する小天体の
観測や研究についての情報交換を行う場として開設されたものです。この趣旨
に沿った内容であれば、観測報告や研究結果の発表はもちろん、多少の雑談ま
で、幅広い内容の投稿を歓迎します。初心者だから、観測をしていないから、
と臆することなく、遠慮なく投稿して議論を盛り上げていきましょう。

2.ルール&マナー
(1) 投稿義務
本MLは情報『交換』の場であって、情報を得るためだけの参加は好まれませ
ん。半年間投稿がない場合、予告なくIDが抹消されることがあります。事情
がある場合はこの限りではありませんので、後述する管理者までご連絡下さい。

(2) 投稿の転載、引用、転送
本MLへの投稿は個人メールとして扱って下さい。他への転載や引用は、IC
Qフォーマットで報告された観測データを除き、事前に投稿者の承諾を得てか
ら行って下さい。特に軌道要素は数字が一人歩きしやすいので、その扱いには
慎重を期してください。

ICQフォーマットで報告された光度観測は、特に指示がない限り、自動的に
正式な報告としてICQへ転送されます。また観測者から指示がなければ、他
への転載や引用が可能です。ただしICQ掲載までに観測者から訂正が行われ
た時に速やかにこれを反映することを条件とします。

投稿内容のうち、MPCフォーマットの位置観測データおよび軌道要素は、M
PCまたはMPECに掲載された時点で公開情報と見なします。その後の転載
や引用は、著作権法の一般的な解釈に従って行って下さい。なお、位置観測デ
ータは自動的に転送されることはありません。小惑星センターへの正式な報告
は、各自の責任で行って下さい。

他からの転載・引用は、転載・引用元のルールに従って行ってください。

(3) 話題の制限
本ML上では「趣旨」に添った内容であれば原則として話題に制限はありませ
ん。ただし、未確認の彗星、特異小惑星、新星、超新星に関する話題は避けて
ください(未確認のまま終わった場合は話題にして構いません)。参加者のア
ドレスを定期的に公開しますので、観測依頼等は個人メールで行って下さい。

(4) 形式
文章は必ずテキスト形式で送信して下さい(html形式等ではうまく読めない場
合があります)。機種依存の文字や半角カタカナは使わないで下さい。また、
画像等の添付は一切行わないで下さい。代わりにリンク先のURL等を明示し
て下さい。

(5) タイトル、発信者欄
タイトル欄(Subject)は原則として半角英文字で書いて下さい。英語の練習
と思って努力しましょう。発信者欄(From)も特に理由がなければ半角英文字
で書いて下さい。

(6) 投稿の引用
無駄な引用文は避けて下さい。引用が必要な場合でも最低限必要な行にとどめ、
シンプルで読みやすい投稿となるよう心がけましょう。

3.管理者
 現在の管理者は中村彰正です。参加・脱退の申し
込み、配信先IDの変更依頼等は、すべて中村まで連絡をして下さい。手動作
業のため、完了までに1週間程度かかる場合があります。ご了承ください。


----------------------------------------------------
中村 彰正 (Akimasa Nakamura)  a-nakamu@mx2.nisiq.net
----------------------------------------------------
 

結び

 すべてパソコン画面で処理する観測などさぞかし味気のないものと思われよう。筆者も観測をはじめた頃はそう感じていた。しかし彗星には個性がある。ちんまりした姿で足早に駈けるP/2001 Q6 (NEAT)は可愛らしく見えるし、「眼」みたいな形の19P/Borrellyには不気味さを感じたりもする。接近中の彗星がどんどん大きく、明るく、ときには核が分裂したり、姿を変えてゆく過程には興味深いものがある。驚くべきスピードで写野を駈ける地球接近型特異小惑星には観測中の構図決定に難儀したり、発見直後の新彗星が暫定軌道から予報された位置にいなくて捜すのに慌てふためくのは迷子を捜す気分である。CCD観測にも、眼視観測に劣らない楽しみがあることを付け加えて終わりとしたい。

本稿の一部を2001年10月21日、OAA・大阪支部例会において発表した。

 

参考文献・参考サイト

1) http://www.aerith.net/index-j.html:吉田誠一氏

2) 福島英雄: 冷却CCD入門: 1996.

3) 木下一男: 彗星の位置推算. INTERACTIVE ASTRONOMY Vol.8: 104~113, 1996.

4) http://www.astrometrica.at/:Herbert Raab氏 Astrometricaの作者

5) http://www.astroarts.com/ageo/:門田健一氏 観測に役立つリンクが充実している。

6) http://www9.ocn.ne.jp/~comet/:木下一男氏 観測可能な彗星、小惑星の軌道要素。月に二度更新される。ステラナビ他プラネタリウムソフト向けフォーマットもある。その他、彗星観測準備に役立つ情報が多数掲載されている。

7) http://homepage2.nifty.com/mtnsuzuki/:鈴木雅之氏 木下氏やMPCが発表する軌道要素(天体一覧)をAstrometricaで使えるよう一行毎に分解するソフトが入手できるほか、彗星・小惑星の情報、望遠鏡やCCDカメラに関する考察が豊富である。

8) http://scully.harvard.edu/~cgi/CheckMP:Minor Planet Checker 観測日時、位置、写野範囲を入力すると指定位置付近に存在する既知の小惑星を表示する。

9) 小島卓雄: 冷却CCDによる彗星/小惑星の観測 INTERACTIVE ASTRONOMY Vol.3: 99~108, 1995.

10) http://cfa-www.harvard.edu/iau/info/Astrometry.html: 初心者向け位置測定ガイド(英文)

11) http://cfa-www.harvard.edu/iau/info/OpticalObs.html:報告フォーマットの解説(英文)

12) http://cfa-www.harvard.edu/mpec/RecentMPECs.html:Recent MPECs 新天体情報、最新軌道要素等がリアルタイムで得られる。毎日更新されている。こちらからアクセスせずとも、有料で電子購読が可能である。

 

追補

 AstrometricaはTIFFフォーマット(8ビット、グレースケール)の画像を読み込むことができる。銀塩写真をスキャンし、TIFFフォーマットで保存すれば位置測定に使える。

 筆者が手持ちのライカ版カラースライド(木曽シュミットカメラによるM45画像)を処理し、比較星同士で測定を行ったところ、残差は1"程度であった。この写真の撮影データが不明であり、筆者自身の銀塩写真による追試は行っていないが、CCD以前には1000ミリ程度の焦点距離による銀塩写真から精測が行なわれていたのであるから、同程度の焦点距離があれば、Astrometricaを用いることにより、より簡単な作業で以前と変わらない測定精度が期待できる。

 長焦点鏡による超新星捜索者はもとより、軽~中望遠レンズによる新星捜索者や、流星観測者の位置測定にも応用可能と考える。

 Helbert Raab氏は現在Windows版・Astrometricaの作成に取り組んでいる。その最新バージョンは5月1日現在、4.2.0.317である。

 筆者はこの二ヶ月ほどこれを使ってさまざまな画像から彗星の位置測定を行い、よい精度を得ている。Windows版であるから、Windows画面上から操作でき、関連する他ソフトとのデータやりとりが容易であり、機能としては比較星の自動選択をはじめ、大変便利に感じる点が多い。一般的なWindowsソフトと同様の操作感を持ち、ヘルプファイルも充実している。試用版も登録版と同様の全機能が使えるので、是非これをダウンロードし、試していただきたい。使えそうだと判断すれば登録を行えばよい(筆者は既にライセンスを入手し、登録済みである)。星表には既に書いたUSNO-SA2.0や、開発中であるUCAC、USNO-Bを用意する。DOS版に最も向いていると感じるGSC-ACTは残念ながらサポートされていない。  

謝辞

 執筆のきっかけを頂き、また投稿規定等について丁寧な助言を頂いた原田昭治氏に謝意を表します。

 大阪支部例会へ来られた折、筆者の「光害地に住む彗星好きに可能な観測法は?」という愚問に対し、親切に助言して下さった関 勉氏に謝意を表します。少年週刊誌に掲載された、氏をモデルにした物語(イケヤ・セキ彗星の話)が天文に興味を持つきっかけになったことも併せ、改めて感謝いたします。

 筆者の拙い報告を中央局へ転電され、O-Cの計算や、誤った報告様式等に対しては適切な助言を頂いている中野主一氏に謝意を表します。

 メーリングリストにおいて観測、測定に関する有益な指導、助言を多数頂いた諸先輩、拙文のチェックを引き受けて頂いた門田健一氏、木下一男氏、鈴木雅之氏、佐藤裕久氏はじめ多数のベテラン諸兄に感謝いたします。なかでもGSC-ACT作成用バッチファイルを作って下さり、こまめにチェックして頂いた門田健一氏には特に謝意を表します。

 頑丈、精密な赤道儀と優秀な光学系はもとより、ディフューザーの製作やカメラ接続部分の加工など、特注に素早く対応して下さった宇治天体精機社長・村下修一氏に謝意を表します。

 最後に、拙文のため貴重な紙面を割いて下さった天界編集部に感謝いたします。

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